私の好きな彼女、私を愛した彼氏
私は促されるように鼻緒が切れた右側の下駄を差し出した。
すると、ポケットから取り出した水色と白のチェックのハンカチを切れた結び目の連結部分へと変えていく。
その間わずか20秒。
余りの手際の良さに感服だ……。
だけど彼の【手際の良さ】はこれだけじゃ終わらない。
自分のジャケットのポッケからカイロを取り出すと私に手渡したのだ。


「ほら、足に当てとけよ。寒いだろ?」

浴衣の性質上、足首より下は完全に素肌を晒す形になる。
さらに下駄を履いていない右足の裏側は黒く汚れ……少しむくれていた。



……本当に抜け目が無い。

こーいう部分はアカネにそっくり…だな。


「………ハルぅ…。」
「ん?何?」
「…何でもない。呼んでみただけ。」
「…っはは。変な奴。」

うん…。本当に変だね私。

ハルが優しい。

だけど……。


「……あんさ…、ちょっと話あるんだけどいい?」
「……いいよ。」


私は静かに頷いた。
やっぱりか…と言う諦めに近い感情が押し寄せてくる。
最後の思い出作りっての?
ハルは、……アカネはそう簡単に自分の決意を曲げたりしないから。

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