私の好きな彼女、私を愛した彼氏
【ハルだよっ!!】


私の無駄に明るい声が響いた。
何ていうんだっけ……こーいうの………。
ぁ、そう、KYって言うんだ。


羞恥心で人は死ねる、って何かの本で読んだ事がある――。
全否定して悪態をついていた自分に心から謝罪したい気分だった…。


「っはは、何だよソレ。可愛すぎ…これ以上俺を夢中にさせてどーする気?」
「だ、だって…。」

ハルが背中を丸めて笑っていた。
だけど…声が少し震えてる。
たまにか細い嗚咽が混じり、私は彼が泣いている事に気がついた。
彼に投げかける言葉が見当たらない。
そもそも、私には彼の涙の理由も解らないのに…。
右手を彼に伸ばしては引き戻し思考回路を巡らせた。



………そう……メールだ。



私は寒さで震える手で携帯電話を取り出した。
新着メールを確認すると差出人に【ハル】と書いたメールが届いている。

…読めって事だよね。

私はメールを開いた。

「…アカネとハルのどちらが――。」
「やっぱ、いいわ。」
「ぇ?!」

その動きは実に素早く隙も無駄もなかった。
たった2行しかないメール。
私はそれを7割ほど読み終えた所で携帯電話をハルに奪われてしまったのだ。
おもちゃを取り上げられた子供みたいに私は取り戻そうと手足をバタつかせる。
さらにその隙を縫うようにして、彼は器用にメールを削除してしまったのだ。
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