グレスト王国物語
「ライラシティの木々は、毒の水を吸って皆弱り…その多くが死んでしまいマシタ。だから水はいつまでも綺麗にはなりマセん。

だから私はこの地の土を正常に戻す為、木々の同意の元で、火事を起こしマシタ。

市長を殺したのも私デス。」

炎の翼を纏ったHannaは、じりじりとキリュウににじり寄る。肌を焦がす風、ごう。と言う音が引っきりなしに彼らの耳元を駆け回っては通りすぎて行く。

「どうデス?人間の勝手で人間にされた植物が、人間を殺すんデスよ。博士、研究はさぞや大成功デショうネ?」

破顔する。
だが、涙に濡れたその顔は泣き顔なのか笑い顔なのか、最早判別がつかない。

「貴方が私に娘さんの記憶を求めていたのは知っていマシタ。

昔は貧くて苦労した国長がお金を求めていたのも知っていマシタ。

ご婦人方が純粋に子供を求めていたのも知っていマシタ。

ですが、肉体を与えてみたり、殺してみたり、あなた方の欲望の為に、果たして何本の木の命が犠牲になったのデショう。

命は、あなた方人間だけが勝手に奪ったり与えたりして良い物なのデスか?」

真顔のHannaの瞳からは、大粒の涙が零れ続ける。人間であり植物である葛藤。2つの間で苦しんだ、その証拠だった。

「終わりにしましょう。母を、返して下さい。さもなくば、この火がすぐに侵入し、この研究所を焼き尽くしマスよ。」

「それはできない。これは、私の…私の、長年の夢だ。」

「ならば、私と一緒に死んでもらいマス。この研究所が爆発すれば大樹に引火し、街中の人間が道連れデス。

この国は、欲望と言う病に侵され過ぎました。やり直しマショウ…全て壊して。

私が死ねば女神の涙の力は母に戻り、人間が消えたこの地には緑が戻るデショウから。」

躊躇なく、Hannaは踏み出す。その背に背負った深紅の猛火が、数多の灼熱を引きつれ、キリュウに迫って行く。

「来るな…来るな!出来損ない!」

悲痛な叫び。
たちまちHannaの表情は曇った。拒絶の言葉に壊された最後の感情。後に残ったのは、身を焦がす、憎悪。
その口から漏れた声は、かつてキリュウが聞いたこともないものだった。

「キエロ ニンゲン コノクニ ヲ オカシタ ヤマイ ハ オマエラ ダ!!!」
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