グレスト王国物語
「おおブラッド、任務ご苦労!」

─グレスト王国国家警察資料室。

全ての壁に設置された棚には、ファイリングされた資料がうずたかく積まれている。

ブラッドはゆっくりとその男─ブライト国務長官に歩み寄り、手にした小さなケースを開いた。

「大地の女神ガラティアナと、樹の女神リフィエラからだ。」

ピンクとグリーンの玉が、その声に応じるかのようにきらりと光を放った。

ブライトは涼しい顔でその2つを受け取ると、ブラッドに書類を渡す。

「これは…」

「シルヴァの戸籍データだ。パートナーについて良く知っておいた方がいい。」

言われるまま、ブラッドはその文字の群れへと視線を落とした。

─兄弟なし。両親死亡。

「な…」

「事故死らしいぞ。」

さらりと。そう言ってのけた上司に、ブラッドはふと一抹の不安を感じた。

「……なぁ、ブライト国務長官。」

「なんだ。」

「女神の涙を集めることは…本当に…」

「間違っている、とでも?」
「いや、だが……」

「安心しろ。ブラッド。」

その声は、いつも子守唄のように心地良く。

「お前のやっていることは、正しい。これは必要な事だ。この国を救う為にな。それに……」

ブライトは、顔一面にいつもの笑顔を浮かべてブラッドを真正面から見つめた。

「お前だって、妹に会いたいだろう?」

ブラッド兄さん。

呼ぶ声が、その笑顔が、輝く銀色の髪が、「彼女」と重なる。

「お前が殺めてしまった、」

そう、俺が殺してしまった。

「グレイちゃんに。」




─残る女神の涙は、

あとふたつ。
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