グレスト王国物語
見ると、ドアが開いていて、そこには女が立っていた。

美しい銀色の髪。私の髪と同じ。だけど、それはとても短く切り揃えられている。紫色の瞳と桃色の頬。整った顔立ち。

とても美人な人だ。

ただ、見に着けているのはお伽噺でしか見たことがないような古めかしい形のズボンに、シャツ。

男もののその装いは、はるか昔の騎士の普段着を思わせた。

そして、もう1つ。

きつく歪められた瞳は、彼女が今ものすごく不機嫌なことを物語っていた。

「あの…あなたは……」

「私は智の女神、イヴァだ。」

「助けて下さったんで、」

「あぁ、止めろやめろ。」

イライラした様子で、彼女は私の言葉を遮った。

「お前等は、この街を外部から守っているまじないに引っ掛かっただけだ。

その男がお前を担いでここまでやってきた。それだけだ。

私は感謝されるようなことは何もしていない。

もう何も言うな。」

鬱陶しい。

彼女はそう言い放つと、ブラッドをひとにらみして部屋を出ると、階段を降りて行った。

彼女が去った後、微妙な沈黙が部屋に漂った。

「…何であんなに怒ってるんでしょうか。」

「さぁな。こっちが聞きてぇくらいだ。」

お手上げ。

と言った様子で肩をすくめると、ブラッドは大きな窓を開けた。サングラスの奥で、紅い瞳が燃えている。

「お前、女神の涙回収しておけ。」
「…はい?」

「俺には俺の、仕事があんだよ。」

そう言いながら、既にブラッドの左足は窓枠にかかっている。

「ちょっと…待…」
「じゃあな。」

ひらりとジャケットをはためかせて、次の瞬間にはもうブラッドの姿はどこにもなかった。
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