グレスト王国物語
急いで下の階に降りて行ってみると、辺りにはもくもくと埃が立ち込めていた。
鼻がむずむずする。

目を凝らすと、何やら何かがもつれあって暴れている様子。

「出ていけえぇっ!!このっ!」

「いだっ…痛いっ!」

ひっきりなしにイヴァの怒声と、ばしばしと枕か何かを殴り付けている様な音が上がる。

ようやく埃が収まると、シルヴァの目には、1人の青年が床の上に大の字に伸びている光景が飛び込んで来た。

細身で長身。なかなか可愛いげのある顔立ち。鼻の上にちょこんと乗せた眼鏡もまた可愛いらしい。

…完全に泡を吹いているが。

すっかり伸びきった青年を見下して、イヴァは目を見開き、はぁはぁと肩で息をついていた。

「あのぅ……イヴァ…さん……?」

恐る恐る声をかけてみると、凄まじい形相で睨み付けられた。

「何の用だ…小娘…起きたのなら直ちに出ていけ。」

そう唸ると、イヴァは伸びた青年を引きずって、ドアの外に放り出してしまった。

そのまま、彼女は奥の部屋に引っ込んで行った。

(うわぁ…)

あれでは、あまりにもあの青年が可哀想だ。

いや、もしかしたら彼が何かイヴァさんにいかがわしいことでもしたのかも知れないが、それにしてもあの扱いは可哀想すぎる。

外に出ようと足を踏み出して、シルヴァは何かを踏みつけた感覚にふと。我にかえった。

それは、本だった。

それも、一冊二冊どころの話ではない。

床を埋め尽くす本の洪水。
壁を見れば、天井まで伸びるそれは全て本棚で。圧倒される。

クラシックな赤や緑の背表紙に彩られたそこは、まさしく本が支配する空間だった。

思わず、立ちすくむ。

ぱたぱた、ぱた

2階から、先ほどの鴉がやってきた。

彼は我が物顔でテーブルの上に積んである本のタワーに止まって、こちらを見た。

何もかもを透かす様にこちらを眺める鴉の、紫の瞳。

気を取られていると、静かに玄関のドアが開いた。
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