グレスト王国物語
***

「グレストの伝説なんて…始めて読みました。」

「そうだと思ったよ。最近の子は知らないもんね。こういうの。」

リヴェルは鼻にかかった眼鏡を、くいと持ち上げるとまた笑った。

「最近物騒だし災害も酷いだろ?もしかしたらそろそろ、伝説に従って誰かが動き出してるんじゃないかなぁ…なんて思ってたんだ。」

そこでちょうど本の片付けを終えると、彼は椅子を引いて静かに腰を下ろした。

ぱた、ぱた、

あの鴉がどこからか帰ってきた。リヴェルには懐いているようで、彼のそばに降り立って羽を休め始める。

「その子…」

「いつもいるんだ。彼女が飼ってるのかな。」

「へぇ……あ、」

「?どうしたの、」

「いや、あの、」

指差す。彼の後ろに、いたのだ。

「何してる。…貴様ら。」

「い、イヴァ!!いや、あの…」

「出ていけと言ったろう!!!!」

何もそこまでと言う形相でイヴァは叫び、リヴェルが座っている椅子ごと彼を蹴り飛ばした。

そのまま、彼は壁にぶつかる。

先ほど彼が時間をかけて片付けた本が、ばさばさと寂しい音を立てて床に散らばった。

「…出ていけ、」

「イヴァ、」

「出ていけぇ!!!」

叫び。

痛いほどの静寂の中でゆっくりと立ち上がると、リヴェルは静かに立ち去った。

部屋に2人残ったシルヴァとイヴァの間には、何とも居づらい空気が満ちていた。

「どうして…」

「あぁ?」

「どうしてそこまであの人を嫌うんです。女神なら…」

「女神なら、なんだ。女神なら人間が好きで当然か?残念だったな。私は人間だ。」

「え、」

「智の女神は代々人間が務めると決まっている。」

「はぁ…」

「私は、男を好かん。」

「でも、リヴェルさんが…」

「五月蝿いぞ、娘。そんなに追い出されたいのか。」

鋭利に吐かれる言葉。
シルヴァには、なぜだか彼女が強がっているように見えた。
< 131 / 243 >

この作品をシェア

pagetop