グレスト王国物語
大丈夫なわけがないのは、シルヴァの目から見ても明白だった。

男は、ゆっくりと娘のそばにしゃがみこむと、彼女の顔を覗きこんだ。

彼の目に映ったのは、限りなく空虚な瞳。

焦点は、空を彷徨いどこにも結ばれていない。

「おい、グレイ!」

肩を掴んで、揺さ振る。

すると、娘は急に大きく目を見開いて、金切り声を上げた。

耳をつんざくような、悲鳴。

「グレイ!俺だ……っ!」

瞬間、男の息が詰まる。

腹に、娘が手にした包丁が食い込んでいた。

彼の目の前は、

急に真っ暗になった。
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