グレスト王国物語
「歴史だ。この世界の。」

言うと、ブラッドは、手近にあった辞典のように分厚い本を手渡して来た。

ずしりと重いそれは、興味深いが何となく開く気を失わせる。

「歴史ですか…歴史書く人にしては、情緒不安定ですよね。」

「同性には手厳しいんだな…お前…」

「だってそうじゃないですか、初対面の人に対してあの態度ってあります?」

「………。」

「ブラッドさん?」

「ずいぶんな言い様だな。娘。」

「あ……」

出た。

またしても背後から現れたイヴァは、こちらを見もせずに先ほど私が荒らした書斎を覗いた。

「ごめんなさい!私…」

「お前、私が扉にかけておいた呪い(まじない)を破ったのか。」

「ま、呪い?」

「ふん…見かけよりは力があるようだな。」

イヴァはさして面白くもなさそうに扉を閉めると、指先で軽く模様を書き、手をかざした。

ぶつぶつと呪文のようなものを唱えると、その模様は淡く紫に輝いて、消えた。
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