グレスト王国物語
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シルヴァの手は、触れただけでぞっとするほど熱く、ねとりとした血は、少し払ったくらいではまとわりついて離れない。

「や、止めて…来ないで…いや!来るなぁっ!」

シルヴァは抵抗した。

掴んだ腕に反抗する彼女の爪が食い込む。

それでも、ブラッドは手を離さない。

このまま殺されても、それでも良い。

だが、死ぬなら彼女の苦しみを少しでも拭ってやりたかった。

「いやぁ!!」

女は、腕に齧りつく。それは、もはや人間の力を遥かにしのぎ、獣が肉を食いちぎる様だった。

ブラッドは、歯を食いしばる。

痛みなら、これまでだって幾度となく味わってきた。

そうして激痛をやり過ごすと、ブラッドは茨の蔓ごと、シルヴァを抱きしめた。

「いやああぁ!!!!」

暴れるシルヴァを、全身で、全力で、抑え込む。

強く抱けば抱くほど、茨の刺は深く突き刺さる。

そこから、直に、彼女の悲しみが、憎しみが、流れ込んできた。

痛いよ。

苦しいよ。

いくら歯を食いしばっても、その激痛はやり過ごせず、口からはうめき声が漏れた。

それでも、放してしまうわけにはいかない。

そうして、ようやくブラッドは、暴れるシルヴァの小さな頭を両の腕に抱きこんだ。

「いや…いや…」

涙が、彼女の目から零れた血の涙が溢れて、背中を濡らして行く。

それは、しゅうしゅうと嫌な臭いを立てて肉を焼いた。

「俺が、憎いなら、殺せば良い。持って逝ってやる。全部、全部全部、おれが、」

俺が、持って行ってやるから。

全身が炎のような痛みでもはや何が何だか分からない。

気づけば、太い茨の一本が、心臓のある場所に埋まっていた。

そして、そう気がついた時、彼はシルヴァが暴れるのをやめていることにも気がついた。

その瞬間、シルヴァの全身に食い込んでいた茨が、一気にそこに集まり、ブラッドを差し貫いた。

めりめりと音を立て、それは、柔らかい肉を割り、血のしぶきを全身に纏い、心臓を握りつぶして、骨をしゃぶって、

それは、気を失うことも許さないほどの激痛をもってブラッドの身体を貫通すると、

ぼろぼろと腐って

そうして

消えた。

後に残ったのはすさまじい、

痛み。

激痛。

灼熱に似た、

苦しみ。

回る、回る、

地獄の苦しみ。

叫んで、泣いて、転がって、

そうしているうちに、その激痛は、いつしか身体の中に溶け込んでしまった。
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