グレスト王国物語
*シルヴァ*

「見せしめ…お前…処刑……やる」

─大変だ。

大変なことを聞いてしまった。

私は、ゆっくりと石造りの(所々ひび割れて、音が漏れて来る)壁から耳を離した。

日が落ち、漆黒に包まれた城内は氷点下十数度の極寒。

壁につけていた顔の半分が、寒さにただれてぴりぴりした。

(王子はあの人を殺す気…?)

バルベール、ジェシカ、アイシェ亡国王、毒殺、暗殺、処刑…

新たに手に入れた情報に、寒さで凍える頭は飽和状態だ。

…さて、どうしようか……。

冷えた腕をさする。
さすがに、この寒さの中立ち聞きはこたえた。

重い空気に、真っ暗な廊下。
石でできたこの城は、さながら牢獄のようだ。

(ブラッドに知らせようか……)

ポシェットに手を突っ込み、任務前に、ブラッドに駅で貸してもらった携帯電話をまさぐる。

なかなか見つからない。

(…いいや、)

とにかく、長居はできない。
さっきだって一度、城の中で松明を持った誰かに追いかけられてしまった。

足音を立てないように、私はゆっくりと長い廊下を戻り始めた。

確か、ずっと行った突き当たりに階段があったはずだ。

妙な焦燥感が背中を押している。急がないと。
< 31 / 243 >

この作品をシェア

pagetop