グレスト王国物語
頭に、鈍い痛みが襲って来た。

ジェシカは、氷のように重くなった瞳を開いた。

自分の体にはジャケットがかかっていて、目線の少し先には銀髪の女が、膝を抱えてかたかたと体を震わせていた。

「あ。起きた。」

(…どうして私にジャケットを?どうして、シオナの女がここに?)

そんなことを、ジェシカが痛む頭で考えていると、彼女に気がついた銀髪が、小さく顔を綻ばせた。

「お前……」

「あ、動かない方が良いですよ。首とか、痛むと思うから…。」

ジェシカが体を起こしかけると、銀髪は、静かにそれを制した。

(実際、信じられない程体が痛んだのでジェシカは結局それを諦めた。)

「お前、」

「シルヴァです。」

「…シルヴァ、どうしてここに。」

「んー。どうしてでしょうかねぇ。」

本当は、ここに入れる側なんですけど…。

と、シルヴァはぼやいた。
牢中の空気が、2人の呼吸に合わせて朧に揺れる。

牢屋の窓から見える小さい空は未だ、薄暗い闇を纏っていた。

石の床は凍るほどに冷たかったが、シルヴァがかけてくれたジャケットは、少しだけ温かく感じた。

「…あの、あなたは辛くないんですか?…あんな人の部下だなんて。」

(っ…!止めろっ…!)

かっ。と、ジェシカは、自分の頭に血が集まるのが分かった。

「申し訳ないですけどあの王子…完全にイカれてるじゃないですか」

「っ!違うっ!!」

声は、孤独な石牢にこだまして消えた。

言ってしまってから、ジェシカはそれを後悔した。
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