グレスト王国物語
「……私には、よく分からないんですけど。」

沈黙に耐えきれなくなったシルヴァが洩らす。

「…あの王子はもう、」

「いや。」

「どうして…。」

静かに、しかし、確かな意志を宿した言葉がジェシカの唇からこぼれだす。

それは、まるで自分自身に言い聞かせるかの様であった。

「今、バルベール様を見捨てる訳にはいかない…駄目なんだ。私があの人の傍にいなければ…

彼は…バルベール様は、あんまりにも傷つけられ過ぎた。」

「…大臣とか、王様に?」

ジェシカは目を瞑り、嘆息した。

「バルベール様は、幼少の頃から王…お父上をとても慕っていた。

しかし、彼と王に血の繋がりはなかった。

バルベール様は、養子だったんだ。」

「…、」

「人と言うのは残酷な物だな。

その噂が広まった途端、家臣どもは皆王の座を狙い始めた。

この国では、純血の王の子でなければ、王位継承権が与えられないから。」

「………。」

「結局、良からぬ噂を広めた罪が発覚し、ある大臣達が処罰さることになった。

だがその時、事件が起こった。」

「…事件?」

「春の女神の森で、死体が見つかった。

死体の胸には、銃痕があった。

そして、その日、バルベール様は、森で狩りをなさっていた。

大臣たちは、今度は王子が人殺しの狂人だと言う嘘を流した。

その年は、食糧難が起きていて、

…………民は、その噂を信じた。

外に出れば石を投げられ、城にいれば暗殺に怯え。

そうしているうちに、バルベール様が慕っていた王は、病に倒れた。毒を盛られたんだ。

病に気が狂った王は王子を酷く罵った。

…そして、ローラ王国には春が訪れなくなった。」
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