グレスト王国物語
本格的にぐったりとし始めたシルヴァを背中におぶり、ブラッドは都市の中心へと向かった。

火事のために電車は使えないが、手にした携帯電話のナビが、目的地までそう遠くないことを示していた。

人ごみや車でひしめく通りを抜けて、街の中心、大樹へと進んで行く。

一歩足を進める度に、遥か上空で空を覆う大樹の枝が、徐々に太さを増して行くのが分かった。

徐々に木々が増え、周囲の景色は、緑に変わって行く。

都市の中心部だということを、忘れてしまいそうな光景だ。

それからしばらくと経たない内に枝々は幹に合流し、ついに彼らは大樹の下にたどり着いた。

─樹齢3万2千年の、御神木。

天に伸びるその巨木な幹は、大人の男100人が繋がって両手を広げても、届くかどうか分からない程。

無数の枝は、深緑の葉を茂らせ空を覆い、地中を巡る根は複雑に絡みあって、ライラの土地を支えている。

その迫力に思わず息を呑み、彼は更に歩みを進めた。

巨大な樹の根元には(ふもと、と言った方が正しいのかも知れない。)まるで人形の家のように、見た目も形も可愛らしい建物が立っている。

ここが、目指していた病院。

ブラッドの背中で、シルヴァが苦しげに息をついた。

(回復しねぇな…)

舌打ちをひとつ、ブラッドは木製のドアを開いた。
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