グレスト王国物語
***

Hannaに応接室に案内され、そこで待つように言われてから、かなりの時間が経つ。

彼女の体内から女神の涙を取り出す以外に方法はないというのに、一体何を話しあおうと言うのだろうか。

すっかり冷めきった紅茶を口にしながら、ブラッドはそんなことを考えていた。

そういえば、シルヴァはどうなっただろうか。

エルザに電話をしようと携帯電話を取り出したが、「院内通話禁止」と書いた貼り紙が目に入り、諦めた。案外そういうのは気にするタイプなのである。

(あー、頼む。早く来てくれ)

ブラッドが嘆こうとした、その時だった。

ガチャン。

ドアの鍵が、閉まった。

「………は?」

外から閉じ込められた。と彼の頭が理解したのはそれから一瞬後である。

すぐさま、ブラッドは応接室のドアに駆け寄り、扉に耳を押しあてた。経験上、こういう場合は騒ぐより様子を伺った方が賢明であることを、彼は知っていた。

意外にも、聞こえてきたのは若い男の声だった。

(そろそろ決心は固まりましたか?リフィエラさん。)

一見、物腰穏やかな口調である。だが、鼻に掛かったその声は、一言一言がまるで嫌味に聞こえた。この声の主に、ブラッドは覚えがあった。
< 71 / 243 >

この作品をシェア

pagetop