グレスト王国物語
ブラッドが彼を目にしたのは、確かテレビの画面上だった。

ライラシティに着いて、シルヴァが洋服を買い漁っているのを待っていた時である。

向かいのビルの壁に取り付けられた巨大なスクリーンテレビで、「自然生命科学者」の代表として、彼は自らの偉大な発見だったか、決意だったか。そんなことを声高らかに語っていた。

その態度が、いかにも「凡人にも理解しやすく」ぶっていたので何となく癪に触り、ブラッドは彼を記憶に止めていたのだった。

名前は確か、キリュウ・レナウディオ。

(リフィエラさん、ライラシティの子宝に恵まれない女性達を救いたいとは、思わないのですか。)

(それは勿論思いますよ…しかし、)

(この病院に訪れている女性の中には、子供を求めている方も大勢いるでしょう?)

(………)

(あなたさえ決心して下されば、すぐにでもHannaのような子供を作ることができます。)

(…しかし、草木や花から作ったアンドロイドを与えて、彼女達は救われるのでしょうか。)

(アンドロイドではありません、立派な生命体ですよ。植物から作られた新しい人間です。Hannaを見てごらんなさい。)

(………)

(まぁ、構いませんよ。政府から製造の許可は下りているんだ。あなたさえ了解すれば、万事はすぐに解決するのですからね。)

かたん。と、椅子を立つ音が聞こえた。

(ただし、忘れないで下さいよ。この国では、ずいぶん前から著しく出生率が低下しています。

このままではいずれ、科学と緑の近代国ライラも、どこぞやの一属国にすぎなくなってしまうのは必然だ。
…あなたの賢明なる判断を、待っていますよ。)

(リフィエラ殿、ライラシティのさらなる経済発展の為にも、何とぞよろしく頼みますよぉ。)

キリュウの後に、中年男の脂っぽい声が便乗してきた。恐らく待合室にいた、あの禿げた中年男だろう。

少しして、診察室のドアが閉まる小さな音がして、ブラッドは、ゆっくりとドアから耳を離した。
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