グレスト王国物語
***

「くそ…っ、出しやがれ!!」

ブラッドは力任せに重厚な鉄のドアを蹴り付けたが、鈍い音が研究室一杯に響いただけで、やはり自力でどうにかできる代物ではなさそうだった。

「畜生…」

盛大な舌打ちが漏れる。

(…特殊警察が聞いて呆れる。)

最近前線から遠退いてのデスクワークが多かった為か、完全に平和呆けしてしまっていた自分に、ブラッドは苛立ちを隠せなかった。
ひとまず、出られない事には話にならない。

(ぶっ壊すか、)

腰に装着していたピストルに手を伸ばす。鈍く黒い光を放つ愛機は旧式の弾丸でも使用可能な上、レーザーも撃てる最新式だ。

出力を最大にすれば、人ひとり脱出できる程度の穴は開けられるだろう。

(…待てよ……)

ドアに耳を当てる。
僅かにだが、機械音がした。恐らくは、護衛用アンドロイドの機動音。囲まれている。飛び出した瞬間に蜂の巣にするつもりだろう。
そうすれば、研究室は汚れなくて済む。一気に、熱くなっていた血が冷えて行った。みすみす殺されに出ていく訳にもいかない。

できるだけ静かに、ブラッドは部屋の奥へと引き返した。幸い、追って来る気配はない。

今のところ、余計なことをしない限り、殺されはしないだろう…と思いたい。

照明が落とされ、人工の漆黒に塗られた室内は何の気配もしない。

照明の電気は止められたが、子供達が眠る水槽へ送られて来る空気は、流石に止められないらしい。

こぽこぽと言う寂しげな音だけが静かに部屋に満ちている。

ここまで来ると、深海にでも迷い込んでしまったようだ。

部屋の奥の巨大なスクリーンも、電源が切られていた。

侵入者相手に、余計な電力は使いたくない、と言ったところか。
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