グレスト王国物語
しかし、

(ん…?)

部屋の左の片隅の一角だけ、天井からの照明がある場所があった。

それは、人工の照明と言うよりはむしろ太陽の光を模したような柔らかさを帯びた光で、

室内の暗さのため、尚更その灯りの下に立つ人のような影に目が行った。

室内が明るければ、それは良くできた只の人形に見えただろう。

しかし、人型を模して作られたそれは、明らかにこちらに顔を向けしかも瞬きまでしていた。

(ホラー…なわけねえよな……)

警戒をしつつ、それが自分の命を狙っている訳ではないことを悟ると、ブラッドはゆっくりと近づいて行った。

近くで見ると、それは上半身は精巧にできているが、下半身は蔦状になっており、到底足としては役に立たなそうなことが分かった。

子供ほどの背丈しかないが、淡いグリーンの瞳と、透き通るように白い肌を持ったその人形は、

小さな手に赤い花を持ち、そしてその可愛らしい花の根は、子供の手に深々と食い込んでいる。

(何だ…こりゃ、)

「おや、ますたーではありませんね。」

不意に、幼い声が静かな室内に響いた。ブラッドは眉を寄せた。声と、言葉遣いがちぐはぐだ。

「お前…何だ…」

「わたくしは、N-4038しさくひんだいいちごうです。」

「試作品だと…?」

「はい、しょくぶつの生命エネルギーはじんこう脳に適応できるか否かを確かめる為の試作品でございます。」

初め、ぎこちなかった口調は徐々に滑らかさを取り戻して行く。

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