笑うピエロ店員。

一日に一日分の幸せを手に入れる。「ぼく」

エレベーターが、一階二階と上がっていく。
エレベーター停止時独特の気持ち悪い感覚を終えると、ゆっくりとドアが開き、白い壁にいくつもの扉が付いた廊下にぼくは降り立った。

両手に握り締めたケーキの箱に気を使いながらも、ぼくの足並みはどんどん早くなってゆく。

車椅子の人やお見舞いに来た人よけながら、ついにはぼくの足が走り出した。

いつもの扉の前で止まり、ひんやりとした金属の取っ手を右に押し開ける。

「おかあさん。お見舞い来たよ」
「裕也」

病院の個室の窓際。
昨日より血色のよくなったおかあさんが上半身を起こそうとする。

「起きなくていいよ。横になってて」
ぼくは適当にランドセルを下ろし、その後へ隠すように箱を置いていると、「毎日来なくてもいいのに。たまには友達と遊んで来なさい」とおかあさんらしく気丈な声がとんできた。

「だって友達とは学校で毎日会ってるもん」
「おかあさんとだって、退院したら嫌でも毎日会えるじゃない」

「じゃあ明日には肺炎治してよ」
「無理言わないの。退院にはもう少しかかるわよ」

おかあさんは少し語尾を強くしてぼくをたしなめた。
だけど、その顔に怒気はなかった。
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