笑うピエロ店員。
「おかあさん、今日誕生日でしょ。だからおかあさんの好きな苺のケーキ買ってきたんだ。パーティーやろうよ。昔みたいにおっきなケーキにロウソク立ててさ、お歌歌って、ふーってロウソク消して」

「おとうさん」という単語は省いた。

「じゃあ、ケーキ屋さんでロウソク貰ったから立てるね」

柔らかなスポンジに適度な間隔を考えて、ぷすり、ぷすり、とカラフルなロウソクを立てていく。

五本目の塔が立つと、これで完璧になったとケーキが誇らしげにしているようだった。


「立てたよおかあさん。ロウソクつける火……」

顔を上げると、ぼくは息を飲んだ。

見たことがない小さな母の姿に、ぼくは困惑した。

母が泣いていたのだ。

ぽろぽろぽろぽろ落ちる涙。

ありがとう、ありがとう、と聞こえてきそうな。

それでいて、ごめんなさい、ごめんなさい、とも聞こえるような。


何も出来ないぼくは、おかあさんに言葉をかけ、ティッシュを手渡した。

そして、その三十分後、ぼくはケーキを運んだ。

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