図書室
木下先輩は驚いた顔をして振り返った。
「聞きたいことがあるんです」
「具合は大丈夫なの?」
「今のところは…」
木下先輩は近くにあった椅子を引いて静かにベッドの横に座った。
手はまだ握られていたままだった。
「あの、いきなり、こんなこと言うのも変なんですけど…。なんで前髪をそんなに伸ばしてるんですか?」
木下先輩は黙って聞いている。
「切らないんですか?」
そういうと、先輩は握っていた手を離して、君は母親みたいだな、と呟いた。
おせかっかいな自分を恥じた。でも、どうしても聞きたかったのだ。
「コンプレックスなんだ」
木下先輩の声が静かな保健室に響いた。
「目付きが悪いんだ。ずっと気にしていたけど、ある日姉貴にストレートに言われて、中学からずっとこれだよ……」
私がすみません、と謝ると先輩は
「真奈美ちゃん以外にも沢山の人から聞かれてるから、もう慣れっこだよ」
と優しく微笑んだ。
「それでも、まだ出せる勇気が無いんだ………。さすがにマズイとは思ってるけど…」
そう言いながら、自分の前髪を軽く持ち上げた。
そこから見える先輩の目は確かに形は普通よりきつかったが、純粋に綺麗だと思った。
先輩、と呼ぶ。
木下先輩の目が静かに私の方へ移動する。
「私は先輩の笑った顔が好きです。とても優しくて、落ち着きます。」
突然の発言に少々驚きながらも、先輩は優しく笑って、ありがとう、と言った。
「それじゃ、お休み」
木下先輩は立ち上がって、静かに保健室を出ていった。
先輩が出ていった後、私はすごくフワフワした気持ちのまま目を閉じた。