【バーチャルメーカー★博士と助手のとんだ1日】
サミュエルが驚くのも
無理は無い。
スピーカーから曲が流れるの
と同時に研究室内の蛍光灯が
消え、いや、正確に言うと
蛍光灯自体が姿を消し、
辺りの景色が路上に変化し、
天井が抜けて空となり、
刻々と暮れて行き、雨が
降り出したのだ!
それだけではない!
このミュージカルの主役、
往年の俳優、ゲイリー・
エバンスが曲に合わせて
歌い踊って更には映画の通り
水溜まりでバシャン、
バシャンと大きくステップを
踏むものだから、サミュエルの
顔にまともに水飛沫が
飛んで来る。
『わあっ!冷たいっ!
やめて!と、止めて
博士!止めて下さい!』
プレーヤーは、傍らで傘を
さしながら傍観していた
ゴードン博士により
1コーラス程度で止められた。
装置を止めた後も少しの間
ゲイリーが踊っていたが
まるで亡霊の如く徐々に
その姿は薄れて行った。
『ハッハッハ!
どうかね?サム。
実に愉快な装置だろう?
これはバーチャルメーカーと
言ってな、流れる音楽から
イメージをそのまま感知して
仮想現実を抽出する装置
なんだが‥
仮想現実と言っても立体映像
だけではないぞ。ちゃんと
熱い、冷たい等の人間の
五感にも訴え掛ける。
つまり、ナタリーちゃんの
〈クッキー・リトル・
パラダイス〉をかければ、
部屋中がクッキーの山となり、
子供達は大喜び。
儂は心の女神、ナタリーちゃん
と、一緒に過ごせると言う
訳だ♪ハッハッハ!
素晴らしいだろう?』