angel or devil
「あら~!スーツなんか着てどうしたの?」
玄関の扉から、いつもと変わらないママの笑顔が顔を出した。
「お父様はもうお戻りですか?」
「いるわよ。さっ、入って♪」
きっとママは気付いてる。
ママには何でもお見通しだから……
「あぁいらっしゃい。座りなさい。」
「失礼します。」
持っていた新聞を畳んだお父さんの姿に、あたしは張り裂けそうな胸を抑え、慎と二人でソファーに腰をおろした。
「母さんお茶」
それ以上何も言わないお父さん
言葉を選んでいるのか、緊張しているのか
黙って膝の上で拳を握り締める慎
静かなリビングには、キッチンでママがお茶の用意をしている音だけが響いた。
リビングで過ごす時間を、こんなにも長いと感じた事はない―――
「はい。どうぞ。」
ママがテーブルにお茶を置いたと同時に
慎はソファーを降り、床に正座をした。
それを見たあたしも慌てて慎の横に正座した。