ミッドナイト・スクール
生きていた時の浅岡は、それ程感情を表に出さないタイプであり、勿論、こんな恐ろしい表情など誰にも見せた事はなかった。
「なぜなの!」
後ろのステージからユりが叫んだ。
「なぜ、幸はあなたを召喚したりしたの!」
ユリは殺気とも取れる、鋭い眼差しを送った。
魔女は少し笑ったかと思うと、話を切り出した。
「簡単な事だ。さっきも言ったように元々、魔女とは色々な薬を作る知識を持ち合わせた我が一族の事。人間はいつの時代でも求める薬があった。それは恋の媚薬」
魅奈は不謹慎とわかりつつも、媚薬の話には興味を示していた。
「この浅岡もまた、媚薬を求めた者の一人だ。薬を作れる我ら一族の事を調べ尽くし、我らを召喚して、媚薬を入手する筈だったのだろう……ククク、自らの命を捨てる事になろうとも知らずにな」
浅岡は……騙されたのだ。
魔術書を探し、苦労して文字を解読し、召喚に必要な道具を集め、やっとの事で想いがかなう筈だった……が、魔女は決して浅岡の味方ではなかった。
……復讐に燃える悪魔だったのだ。
「……許せない、浅岡先輩の心を踏みにじったんですね」
怒りつつも、丁寧な言い方になってしまう魅奈。しかし、この時ばかりは普段見るおっとりした魅奈ではなかった。純粋な気持ちを踏みにじられた乙女の痛みが心に響いたのだ。
体育館を燃やす炎は、魅奈の怒りに同調したかのように勢いを増す。
「浅岡にとっての餞だ、よく聞くがいい。浅岡の慕っていた人物とは……」
魔女は信二の方に向き直った。
「館林信二、貴様だ」
全員が魔女の告白した名前に驚いたが、中でも一番驚いていたのはやはり信二だった。
「浅岡が……俺を?」
自分の事を見ている魔女。魔女だが浅岡だ。今朝、学校の花壇ですれ違った際の浅岡の何げない挨拶が頭に甦る。

『……おはよう、館林君』

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