ミッドナイト・スクール
「和哉、お前……もしかして」
「いいから行け冴子! ここは俺が死んでも通さねえ」
……冴子は一瞬の間の後、黙って和哉を残し入口を出た。最後に見た和哉の顔に、今まで見た事のない鬼気迫った情念を感じ取り、何も声をかける事が出来なかったのだ。
体育館には和哉とゾンビたちだけが残された。
もはや体育館は完全に炎に包まれ、目の前からはゾンビ。ここは地獄そのものだった。
「さあ、文字通り、地獄の底まで付き合ってやるぜ」
扉を背にして、和哉は決意を新たに最後の戦いに出た。

内戸を出て、観音開きの外扉を出ると、信二たち三人を冷たい空気が包み込んだ。
「うわっ、寒い」
思わず首をすくめた信二だったが、外が寒いのではなく、体育館の中が異常な熱さだったのだと直ぐに気が付いた。
冴子は新鮮な空気を胸一杯に吸った。
「冴子、歩けるのか?」
魅奈を抱き抱えたまま、信二が冴子の方を振り返る。
「私は大丈夫だ。それより信二は魅奈を連れて離れてな」
「おい、冴子。お前はどうするんだよ一緒に来ないのか?」
「ああ、私は和哉を待つよ。和哉に何かあっても直ぐに助けられるようにね」
そう言うと、冴子は魅奈に近寄り、優しく微笑んだ。
「魅奈。よく頑張ったな、もうゆっくり休めるぞ」
冴子の言葉に、魅奈は弱々しいながらも最高の笑顔を返した。
「よし、行け信二!」
背中を押されて、信二は歩きだした。
初めて抱き抱える魅奈は、あまりに軽かった。まるで赤ん坊か幼児でも抱いているような重さに感じた。
「魅奈ちゃん、もう少しの辛抱だよ」
優しく声を掛けると魅奈は無言で頷き、腕を首にからめて来た。
……一歩一歩の振動が魅奈の脇腹の傷に響くのだろう、苦痛の表情をしている。
 信二は魅奈を気遣いながらも、迅速な歩調で居場所を探した。

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