ミッドナイト・スクール
……休育祭の三日前。信二、浅岡、和哉たちのクラスはA連(体育祭では各学年ごとに10チームに分かれて、組から連の呼び名に変わる)の看板の装飾をしていた。信二、和哉に他の数名の男子が看板を立て、女子がペンキ塗りや、細々とした装飾を主にやっていた。
しかし、もちろんクラス全員が仕事を真面目にやる訳ではない。何もせずにお喋りばかりしている者、寝ている者、どこから持ち出したのかボールで遊ぶ者、中にはサボッて早退してしまう者もいた。そんな中で種田はボールで遊ぶ集団の中にいた。種田はボールを追って、脚立の上でペンキ塗りをしていた浅岡の所に突っ込んでしまったのだ。二人とも特にケガはなかったが、とんでもない事に、種田はペンキを頭から被ってしまったのだ。そのマンガのオチのような光景に、辺りは大爆笑となった。種田はこの事件でプライドを大いに傷つけられてしまい、それ以来、ペンキ塗りをしていた浅岡に対して、八つ当たりをするようになったのだ。
まさに自業自得の事件だったのだが、それを認められない種田は、大人ぶっていても子供以下である事が伺える。
……そして、浅岡に声をかけたこの女子生徒は、2年A組のクラス委員長を勤める坂上ユリだ。成績がとても優秀で、容姿端麗のユリはお嬢様育ちだ。特に自分がお嬢様だという意識は薄いが、育った環境のためか重度の潔癖症だった。いつも手足を覆い尽くすように服を着ていて、その上、常に薄い手袋をしている。本人はそうは考えなくても身体の方が人の触ったドアノブ等に触わる事を拒絶しているらしい。
その為か、せっかくの美女を目の前にしても、男たちはユリに声をあまりかけない。
……が、ユリは男女の恋愛にはあまり興味がないらしく、信二や和哉達、数名と話が出来ればそれで満足らしい。
ユリの元に『例の手紙』が届いたのは昨日の事である。教室の自分の机の中に差出人の名前のない水色の封筒。ユりはクラス委員長の仕事柄、生徒会室に呼ばれる事は日常茶飯事だった。
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