ミッドナイト・スクール
学校までの道程の途中にはコンビニがいくつもある。そして、信二はもっとも学校寄りのコンビニの前を通過しようとした所で、店から出て来た一人の少女に声をかけられた。
「おはよーございます! 信二先輩」
声をかけて来たのは一つ下の一年生、影野魅奈である。栗色でウエーブのかかった髪が幼っ気のある顔を引き立てている。クリッとした愛らしい瞳に、ニッコリとした笑顔を持つ彼女は誰もが認める美少女だった。その証拠に、彼女は今年の文化祭での美人コンテストで三位に輝いている。入学して半年余りでこの勢いなのだから、来年は一位間違いなしと専らの噂である。しかし彼女はそんな事を少しも鼻にかける事はなく、誰にでも笑顔を振り撒いてくれる、まさに『天使』とでも形容できる女性なのだ。
「おはよ、魅奈ちゃん」
信二も少し畏まって朝の挨拶を交わした。
どちらからでもなく、二人は残り僅かな通学路を並んで歩き始めた。こんな所を他の生徒に目撃されたなら、信二は一体何十人の男子生徒に羨ましがられる事だろう。しかし、信二は朝、誰とも一緒に登校する約束をしていない。朝にたまたま会った友達と一緒に学校に行く事が日課の信二にとっては、魅奈とのこのひと時も、朝の日課の一つに過ぎない事だと自ら決め付けていた。
……実の所、信二は前から魅奈の事が気になっていた。だから、魅奈がよくこの時間に登校するという事を知ってからは、更に早起きに余念がない。
「先輩は何か部活には入らないんですか?」
魅奈の質問に信二は苦笑いで答えた。
「部活に入ると練習で忙しくなっちゃうでしょ。バイトもあるから、ゆっくり散歩も出来なくなっちゃうしね」
「あははは、なんだか年寄りみたい」
信二はあまり進んで勉強をしないので成績はあまり良くなかったが、中学校では文化部に所属し、高校に入ってからも運動らしい運動をしていないのだが、体力測定等における記録には、運動していない者とは思えない程の記録を残していた。

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