呪 い サ イ ト
「あっ、うん。なんとか大丈夫……」


 痛む顔を擦りながら、力弱く笑う。まわりの人達に心配そうな目で見られた。

 まわりの人だけではなかった。体育館の入り口付近に用意された淡い青緑色の長椅子に座っている、退院したばかりの寧々、幸恵、莉音もだった。
 脳に酸素が届かない時間が長かったため、三人には後遺症が残った。全身の神経が一時的に麻痺している。とはいってもそれはとても軽いもので済んだ。今でも少しならなんとか動けることができるし、リハビリをすればすぐ元通りになるらしい。
 これだけで済んだのは奇跡だそうだ。
 軽くてよかった、という気持ちともっと重ければよかったのに、という気持ちが心の中で鬩ぎ合い、交差する。
 まただ……。自分の気持ちがよくわからない。
 まるで、私の中にもう一人の私がいるよう。片方が悪魔でもう片方が天使。
 ・・・いや、もっとぴったりな例えがある。私の中に鬼がいるのだ。それは悪い鬼。その鬼が私自身に悪いことを考えさせる。

 そんなことを考えている時―――


『UKH、UKH。多目的室。その場で待機』


 焦りの声色が混じる放送が流れた。

 ”UKH”とは上ノ江中学校緊急放送のことを暗号化したものだ。
 不審者が学校に侵入した時、そのことを生徒、教師に安全のため伝えなければいけない。だがそのままのことを放送すれば、不審者を刺激してしまう。そこで学校側は考え、暗号化した訳だ。

 非難練習の時に、教師が鼻を高くして自慢げに話していたのを覚えている。
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