山田丸★ころがり系
「ちょっと」

怒りに震える声でめるが言う。


「ごめんなさいっ」

もう一度僕は謝った。


「わかったから、早くどいて」

めるが言う。


「すっすいません」


僕は慌てて立ち上がった。


「痛いよー」

めるは隣に座る男に言った。


「すっすいません。申し訳ありませんでした」

さらに、もう一度謝ったのは、めるの気を引きたいからだった。


しかし、めるは、もう僕を完全に視界から外して、隣の男と話している。

めるの隣に座っているのは、確か【ナナフシ】と呼ばれている男だ。

背が高くて男前で、いかにもいやな感じだ。

僕はこいつが好きじゃない。

僕のめると話して、にやにやしやがって。


「めるちゃん、ごめんねえ」

今度は可愛らしく謝ってみたが、それも完全無視だ。
アウトオブ眼中とは、まさにこのことなのだと思った。


悔しさで顔が熱くなるのがわかった。


「くっくそぉっ。このなよなよしたやさ男がっ」

小声で僕は呟いた。


その瞬間、ガタッと派手な音がして、ナナフシが立ち上がった。


恐怖で僕は震え上がった。


殴られる、と思った。


しかし、何も起こらなかった。

ナナフシは、椅子に座り直して、再びめると談笑を始めた。
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