St. Valentine's Dayの奇跡


「シノブは今帰り?」


あたしは差し出された右手を無視するように、忍に向き直る。


「嗚呼、試合の帰り。

腹減ったから、ラーメンでも食って帰る。

お前らは?」

「あたし達は勿論、バレンタインの買出しだよ~」


舞がにやけて答えた。


「げぇ~もう、あの恐怖のチョコの季節かぁ~」


忍が心底嫌そうな顔をして呻く。

その様子を横目で見ながら、アツシという奴がくくっと笑った。


「シノブって、見かけによらずモテルからねぇ~

断り方知らねぇから、全部貰うし、おまけに全部食うし」

「食べ物を粗末にする奴ぁ、バチが当たる」


忍が決まり悪そうにそっぽを向いて呟いた。



そんなにいっぱい……貰うんだ……



あたしの気分はまたまた超低空飛行、墜落寸前ってとこ。


「ナギサ、ということだから、義理チョコはいらねぇ」


止めに投げかれられたその一言で、あたしの心は砕け散った。
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