St. Valentine's Dayの奇跡
忍は自分の家の前を通り過ぎ、あたしの方に向かって距離を縮めた。
「お前、今日のあれ、何だよ?」
ちょっと怒ったような、忍の声にビクついた。
「何って?」
「何で急に逃げるように……」
「あ、あれ、あれね。
あたし三時に予約があってさ、急に思い出して焦ってさ」
「よやくぅ、何だそれ?」
「三時から売り出しの限定チョコの整理券持ってたから。
遅れると買えなくなるじゃん。
昨日早起きして並んだのにさ」
「なんだ、まだチョコとか言ってんのかぁ」
「あたしのは義理じゃないもん」
忍の顔がちょっと強張ったように見えたのは、気のせい?
「なんだ、今年は本命がいるのか?」
「あんたでも『本命』とかいう言葉、知ってるんだぁ~
以外」
あたしはなんだか、一人にやける。
「まぁ、じゃぁ、がんばれよ」
忍はそんなあたしを残し、そのまま家に入っていった。