異常人 T橋和則物語


  セント・ヨハンナ教会はしょうしゃな白い建物で、東京都心にあるというのに広大で、きらびやかであった。セロンたちはここの一室を与えられた。和則はびくっと椅子から立ちあがると、発作的に身体を震わせはじめた。痙攣が始まった。まるで、熱い電熱線に小鳥がとまろうとして、足踏みしているかのようだった。
「…和則、どうした?」セロンはきいた。
 そして、彼は息を呑んだ。また、和則がズボンに手をかけて糞しようとしたからだ。しかも、教会の神聖な礼拝堂で。
「和則!だめだ!やめるんだ畜生!」セロンはわめいた。
 ミッシェルも「だめよ、和則!そこはトイレじゃないの!」とわめいた。
 なんとか、和則の”ババ垂れ”は阻止できた。しかし、和則はクレージーに「ウ…ウォーター、ウォーター……ウォーター…」と狂気の呟きをするのだった。
「お前の才能って何だ?和則」セロンがきいた。
 それは和則には答えの出せる質問ではなかった。ひとを馬鹿にしたり、嘲笑したり、禿げ頭を磨いたり、排泄したりすることとは、まったく違うからだ。和則は七歳の知能しかない。自分がいっていることさえ理解できないほどなのだ。またもや痙攣が始まった。
「もちろん、才能ある。おれもできる」
 これでは会話ははずまない。「おれもできるって、何が?」セロンがきいた。
「おれもできるって、何が?」和則が抑圧のない声でまねた。それからふと思い出したように続けた。「は!」
 この最後の言葉に大して、セロンは当然ながら相手をぽかんとみつめる以外、答えるすべを持たなかった。これが和則に勝利感を与えたらしい。もっともそんな感覚を持っていればの話だが…。
「は! は! は! は!」
「和則!」ミッシェルが手を差し延べた。
 
< 15 / 63 >

この作品をシェア

pagetop