《短編》聖なる夜に
聖なる夜に
終業式が終わり、生徒達は足早に教室に戻る。



“早くホームルームを終わらせて、帰ってクリスマスを満喫だ!”


きっと、そんな風に思ってるんじゃないかと思うほど、その足取りは軽い。


だけどあたし一人、打ち鳴らす心臓の音ばかりを気にしていた。



冬休みの過ごし方についてベラベラ喋る担任の言葉も耳に入らず、あたしはエイジの先ほどの顔ばかりを気にしてしまう。


あれじゃまるで、期待させてるだけじゃん。


好きじゃないくせに…。


明日は他の子と過ごすくせに…。


だけど、ごめんね、近藤くん…。


それでもあたしは、エイジが好きなんだ。



『―――じゃあこれで、ホームルームを終了する!』


その声と共に、教室が一気に笑顔に変わる。


歓喜の声さえ聞こえ、だけどあたしは、ゆっくりと立ち上がった。



「…ミチ、行ってくるわ。」


『…近藤くん?
何て返事するの?』


「…帰ってきたら教えてあげるよ。」


その言葉を残し、力なく笑って教室から出た。


進む一歩一歩は、朝とは違う。


だけど心境は、どっちも同じだ。



今度だって、終業式の間中、練習したんだ。


心の中で復唱し、足を止めないようにまた踏み出す。


今度の階段もやっぱり、上の階はエイジに続いてて。


だけど、待ってるのは近藤くんなんだ。


もしかしたら、降りてくるエイジに見られるかもしれないから。


だから、早く言わなくちゃ。


“ごめんね”って。



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