《短編》聖なる夜に
「…あのさ、エイジ…。」


大きなため息をつき、言われた通りに名前を呼んだ。



『…何?』


「…ホントに、付き合うことになっちゃってんの?」


『うん、そー言わなかったっけ?』


まるでそれが当たり前であるかのように、エイジは言う。


だけどもぉ諦め、悲しむことをやめた。


だって悲しんだって、この男はあたしを解放してくれないだろうし。



「…どーせ、軽い付き合いなんでしょ?」


だけど何か言われる前に、あたしは言葉を続けた。


「…束縛とか、もちろんナシね?
あたし、そーゆーのもぉ嫌なんだよ。」


『…ふ~ん。』



“ふ~ん”って、それだけかよ。


だけど負けないように、更に言葉を続ける。



「…それから、付き合うとか誰にも言わないでよね?
あたし、エイジのファンに睨まれたくないんだ。」


『…で?
これからどこ行く?』



って、聞けよ!


決意虚しく先を歩き出したエイジに、完璧負けてしまったあたし。


勝てるとまではさすがに思っていなかったが、まさかここまで良いようにあしらわれるとは…。




仕方なく街を歩くエイジの後ろを、あたしも何も言わずについて歩いた。


適当に“クレープ食べたい”なんて言ってみたら、
エイジは“買ってやる”なんて言い出して、さすがのあたしも驚いた。


“何だ、優しいトコあるんじゃん”って。


心を動かされたのが、そもそもの間違いだったのだろう。


クレープ代の代わりに、キスをまた一つ奪われた。



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