《短編》聖なる夜に
それから早一ヶ月。


目前には恋人達の一大イベントであるクリスマスを控え、この学校の人々も例外なく浮き足立つ。


もちろん女子の半数はエイジを狙い、ヤツの周りを甘い匂いと黄色い声が包む。


そんな環境に何ら動じることもないのが、腹が立つ以外にない。


必要以上にエイジには近づかないようにしているが、勝手に向こうが声を掛けてくる。


その度に睨まれ、疲れとストレスは溜まる一方で。




『ムーカーつーくー。』


「…ハァ?」


『…って、顔に書いてあるみたい。』


あたしの隣の席に腰を下ろしたミチは、ニヤついた顔であたしの顔の前に一本指を差し出す。


その指を払い除け、代わりにミチを睨み付けた。



「…別に、ムカついてません。」


『…否定しちゃって…。』


クスッと笑ったミチに、唇を噛み締める。



「…そりゃームカつきもするよ。
何であたしが、怖い先輩達に睨まれなきゃいけないの?」


『…あれ?
そっちにムカついてんの?』


不満そうに、ミチは口を尖らせる。


『…エイジ先輩が女に囲まれてることに、ムカついてんじゃないの?』


「それはない。」


と、強く言ってみたが、実際はそっちの方が多分、大きいんだと思う。


“襲う”とか言っときながらエイジは、キス以上はしてこない。


いや、襲われても困るんだけど。


とにかく、拍子抜けしてしまった。


“アイツ、一体何なんだ?”なんて考える時間は増え、気付いたらあたしはいつも、エイジのことを考えている。


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