小さな約束
「……大切な…人を」
その先は、全然聞こえなかった。
…聞こえなかった…ではなくて、聞かなかった。
テーブルに肘をつくフリをし、見えないように耳をふさいだ。
『大切な人』
その言葉が、妙に心に響いた。
大切な人の後の、『を』はよく分からなかった。
けど、分かるのは、美香が大切な人って事。
この1ヶ月、日陽は私を、『大切な人』と思われていなかった。
そして、私が苦労して勝ち取った、大切な人という嬉しい立場は、親友の美香にとって奪い取られた。
…簡単に。
「ほら。食べ終わったんなら、早くねろ。二階の、階段に一番近い部屋が空いてるから。ベッドとかもあるから、一人で寝られるだろ?」
さっき、悲しそうな顔をしていた日陽の顔は、すぐにいつものような顔に戻った。
「はーい。」
悲しい心境を知られない為に、私はワザと元気よく答えた。
そして、近くにあった階段を登り、一番近くの部屋に入った。
「うわぁ!すごい」
私が入った部屋、階段に一番近い部屋は、私が思わずそう呟く程の、部屋だった。