あたらしい世界
そうして。


スーパーで料理の材料とお酒を買って、同棲よろしく買い物袋をふたりで提げて帰ってきた。


ふたりでアパートの狭いキッチンに立って。


私はミニハンバーグとミネストローネスープ、部長は冷奴とクラッカーの上に色とりどりの野菜をもりつけして。


おつまみ、完成。


「かんぱーい」


「はーい」


私と部長は、缶ビール同士をベン、とくっつけあって乾杯した。


「――帰ってきて、誰かがいるっていいもんだな」


「すみません。居座っちゃって」


「はははっ、だから、恐縮するなって。いいって言ってるじゃん。――あ、スープ旨い」


「野菜たっぷり入ってますからね。栄養つけなきゃ」

カーテンボロボロ、カーペットボロボロの中、割ときれいな木製の座卓の上に並べられた料理。


「部長って、器用なんですね。クラッカー、きれいで食べるのもったいない」


生ハムときゅうり、ゆで卵とミニトマト、チーズとサラミ……色とりどりで、しかもきれいに盛り付けられている。私、こんな細々とした作業、絶対無理。


「料理なんてもんじゃないけどね。久々に台所立ったよ。もえぎちゃんも、料理上手じゃん」


「まあ、上手いというか、一人暮らしでは日課ですから」


「そっかー。エライな」


そう言い、部長は黙って食卓をじっと見つめた。


――あの表情だ。


眉も目尻も垂れ、哀愁をたたえている。口唇も真一文字に結んでこころここにあらずといった表情。サークル中でもたまに見せる表情。


何かを考えているのか。


何かを思っているのか。
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