あたらしい世界
「部長、ビートルズやりましょうよー」


と、コントラバスの2年生、恒樹くんが直談判していた。


「いいよ。スコアあるの?」


「ないっす。だけど俺書きますよ」


恒樹くんは耳コピーができる。スコアも書けるし編曲もできる。


その才能をかわれていて、部費でまかなえない譜面は彼の手でつくられることもしばしば。


「オッケー。じゃ、ビートルズの代わりに、何か一曲削るかぁ」


――こんな感じでユルイ。

だから、このサークルが好き。


アットホームだし。


人間関係のいざこざもないし。


吹きたい時に吹ける。


コンクールバンドみたいに出席必至でもないし。


やりたくない時に練習したって、意味ないもんね。


恒樹くんと部長が選曲会議をしている中、聖二が私に話かけてきた。


「もえぎ、睦緒。今日、飲みに行かない?」


すると睦緒は目をキラキラさせて、


「いいねぇ。冷えたビール飲みてぇ」


と激しく首を縦に振った。

「うん。莉胡も誘っていこ」


私も同意。


莉胡は別の編成だから第二音楽室にいる。きっと莉胡も来るだろう。


「――この前の2次会、東雲部長とどっか消えてっちゃったもんな、もえぎ」


と、聖二は何気なしに言い出した。


あ、あの、ごめんね。……2次会、楽しかった?」


「別に。フツー」


何故か怒ったように彼は言った。


「今日は飲み行くぞ」


「う、うん」


変な聖二。
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