あたらしい世界
部長のアパートは、相変わらず整頓はされているものの、壁とかカーテンはボロボロになっていた。


私はそれに関しては一切何も言わなかった。


キッチンを借り、牛スジの煮込みと、ポテトサラダ、そして冷凍のものを水で戻したえだまめを用意した。

そして、まだ空は茜色の頃、私たちはビールで乾杯した。 


「料理、上手だなー、もえぎちゃん」


えだまめをついばみながら、食卓に並べられているものを見て部長は言った。


「料理上手というか……、部長、えだまめばかりじゃ栄養偏りますよ」


「うん。とりあえずえだまめ」


「好きですねー」


お酒をかけたのであろう、黄味がかったベトベトする壁に部長はよっかかった。

「8月になったらしばらく練習はお休みですよね。部長、実家に帰ってしっかりご飯食べてくるんですよ」

部長の実家は確か山形県の米沢だったはず。


冬にはどか雪が降って、雪で玄関は封鎖されるので2階の窓から出入りするというのを聞いたことがある。

「実家、か」


そう部長は呟くと、鼻とアゴをつい、と持ち上げてふむ、と言った。


私はまた、部長のそんなポーズをする癖が出た、と内心嬉しかった。


「しばらく帰ってないな」

「お正月以来ですか?」


私が尋ねると、部長は首を左右に振って、


「いや、入学以来」


と、サラッと言った。
< 43 / 73 >

この作品をシェア

pagetop