命の贈り物



変わらないのは、周りだけ。




私たちの日常は大きく変わっていったと思う。





涼が病気と聞いただけで、苦しくて苦しくて。




‘死’なんて自分とはまだ遠く、かけ離れたことのように思っていた。




人生だって、これからだし。





咲はあの日ずっと泣いていたね。




でも私は、悲しくても涙が出なかったんだ。




ただ、頭の中が真っ白になって。




何も考えられなくなっていた。




「おはよ。」




毎朝、孝志が私を迎えに来る。




でもそこに、涼の姿はない。




咲も休みがちだった。





強く、なれない。




現実から逃げ出しているんだ、咲は。




私も、多分真っ直ぐなんて、向き合えてないと思う。




よく、分からないんだ。




ただそうしている間も私たちの周りはゆっくりと、けれど確実に時間が流れていっているんだ。



< 163 / 219 >

この作品をシェア

pagetop