愛羅武勇×総長様Ⅰ
-遼side-
「大智…」
「…っんだよ……」
初めて見た。
「ごめんな…」
初めて見たんだよ。
「謝まるんじゃねぇよ!」
幼なじみの俺が…
大智が泣いている姿を初めて見た。
これまで1度も見たことのない大智の涙を。
「お前と美憂なら大丈夫だ。何があっても俺らが元に戻すよ。」
槙がしゃがんでいる大智の目線に合わせて座り、そう言った。
「大智、行こーぜ。」
「俺嫌われたよな…」
「あの美憂が大智を嫌うわけねぇじゃん!」
「…………サンキュー」
「あぁ。つーか、あの女…今回の件の黒幕ってとこか…」
俺がそう言うと
「原野綾香……あいつの女か…」
槙がそう言った。
「狂羅…」
狂羅(キョウラ)。
藍沢のいる白龍と、うちのチームの龍泉と敵対しているチームだ。
「原野綾香は真白來門の女。原野も何企んでんだか…」
真白來門(マシロ ライト)。
狂羅の15代目総長。
龍泉ができるより、ずっと前にできたチームで、余りいい噂は聞かない。
「遼、美憂の傍にいろ。離れんじゃねぇぞ。」
槙にそう言われて、小さく頷き、走り出した。
原野の作戦が、大智の勢力を弱めさせるためのものなら、次に危ないのは間違いなく美憂。
「遼っ!」
遠くで、大智の叫ぶ声がした。
「死ぬ気で美憂を守れ!総長命令だ!」
「分かってるっつーの!」
大智の言葉を背に聞きながら、再び走り出した。