シルバーブラッド ゼロ
思わず右手を引っ込めて、左手だけを掛けた状態で土壁を這い上がった。
 
体が持ち上がらないかもしれない。
 
そう浩之は思ったが、左手は意外に軽がると浩之の体重を支えた。

浩之は、おかしくなった。

いつの間にか自分自身さえ、自分の女性的な感じのする見た目に騙されていたのだ。

非力ではない自分を、知らなかった。

浩之は、廃屋の裏に這い上がり、その建物を見上げた。

部屋の中から突き出た煙突のせいか、正面から見たときと、かなり印象が違う。

左手に薪が詰まれた棚があって、右手と背面は崖に面している。

浩之は突き出た煙突の隣にある、ドアに近付いてみた。

長細い木片のノブに手をかける。

引いてみて、開かなくて、今度は木片をスライドさせてみた。

木片が動く感覚があり、簡単に、ドアは開いた。
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