渇望
連絡なんかしたくない。


鳴らないだろう携帯はバッグに投げ入れたままにしてあるし、今日が過ぎればまた同じ毎日になる。


だからこんな日を、特別だとは思いたくなかった。



「それよりさ、ジローってどんな顔してクリスマス過ごすんだろうね。
マジ、想像出来ないっての。」


笑い話のように言ったのに、真綾は曖昧な顔で笑った。



「まりん、ジローに用事があるって断られたって。」


まりんちゃんは、ジローが色を掛けている女の子。


こんな日くらい、嘘でも良いから少しでも一緒に過ごしてやれば良いのに。


彼女は部屋の隅で、ぽつんと携帯を眺めていた。



「本人も、薄々わかってるみたいやけど。」


真綾は声を小さくし、



「それでも好きなんやて、ジローのこと。」


「利用されてるだけじゃん、あんなの。」


アキトは瑠衣があたしを利用しているんじゃないか、と言っていたっけ。


その意味なんて、今もまだ知らないけれど。



「けど、あの子は救われてるねん。」


真綾の言葉が耳触りで仕方がない。


めそめそと泣くまりんちゃんも、寂しいだけの烏合の衆も、何もかもに腹が立つ。



「だからって、頑張れとか適当なこと言ってる真綾も、ジローと同罪なんじゃない?」

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