渇望
そうやね、と言うだけの彼女は、苛立ちをぶつけることしか出来ないあたしよりずっと大人なのかもしれない。


だから自分で言っておいて、自己嫌悪に陥りそうだ。



「ごめん。」


「百合りんは、すぐそうやって謝るんやなぁ。」


真綾は困ったように笑いながら、



「クリスマス・イブなんやし、笑顔や、笑顔!」


そう言って、ピースをした。


どうしてそんな風に、他人を勇気づけられるのだろう。


その強さが羨ましくも眩しくて、窓の外へと視線を滑らせた。


ネオン街は今日も嘘臭い色で明るくて、まるで人々の孤独を糧に輝いているかのよう。



「やっぱ、こんな街で恋愛なんてするもんじゃないよね。」


呟きは、物悲しくも消える。


笑いながら泣くことと、泣きながら笑うことは、どちらがマシだったろうと、今では思う。



「金と欲望の街で、みんな本物を探してるねん。
そういうのに希望を見い出さな、やっとられんのかもなぁ。」


「本物なんて、あるわけないよ。」


真綾は何も言わなかった。


苦いビールも、煙草の味も、いつの間にかこの体に馴染んでしまった。


知らない男に抱かれることも、大金を手にすることも、あたしはもう、何も感じないのかもしれない。


それは良いことなのか、どうなのか。

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