渇望
ため息混じりに電話を切ると、「誰?」と横から真綾が首を傾けてきた。



「ジュンに呼び出されたから、ちょっと行ってくる。」


「…こんな時間に?」


確かに、今までなかったことだけど。


外はどう見ても寒そうで、あたしは上着を羽織り、固く前を閉じた。



「あ、今日がクリスマス本番やね。」


思い出したように言う彼女を尻目に、あたしは事務所を後にした。


12月の夜風は身に染みて、急ぎ足でオーシャンがあるビルまで行くと、階段に座って煙草を吹かすスーツがひとり。


その腕の中には、何故か30センチほどのスヌーピーのぬいぐるみがある。


しかも、サンタの格好をしたやつだ。



「おー、百合!」


「ちょっと、何やってんのよ!」


息を切らしてその傍まで近づくと、ジュンはへらへらと笑っていた。


折角心配してやったのに、と腹が立ってくるのだが。



「はい、これプレゼント。」


差し出されたのは、スヌーピー。


目を丸くしてそれと彼を交互に見ていると、



「クリスマスじゃんか。
ゲーセンで頑張ったんだけど、5千円も使っちゃった。」


「…それを、あたしにくれんの?」


「だってお前が喜ぶと思って。」


確かに、あたしが唯一好きなキャラクターといえば、これくらいのものだろうけど。


てか、そんなことをいちいち覚えていたジュンにも驚いてしまう。



「これ、今日中に渡したくて、アフターとかも全部断った。」

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