渇望
こんな日に、ナンバーツーのくせに仕事よりあたしにこれを渡すことを優先させるだなんて、ジュンは大馬鹿だ。


けれど、反面で嬉しくもなり、泣きそうになってしまう。



「何でこんなことするのよ!」


「だって俺にとって百合は大事だからさ。」


屈託なく、彼は言う。



「俺は所詮ホストだけど、それより前にひとりの男で、この街で共に生きる可愛い女が心配だったから。」


立ち上がったジュンに、気付けば見下ろされる形になっていた。


そして手渡されたぬいぐるみを抱き締めると、そのあたたかさに切なくなる。



「やっぱ似合ってねぇな。」


こんなもんを抱えているあたしを見て言われた台詞に、口を尖らせることしか出来ない。


プレゼントしたヤツが言うな、って感じだけれど。


寒空の下で胸の肌蹴た格好の彼は、どれくらいここにいたのか、寒ぃよ、と笑っている。


いたたまれなくなりそうだ。



「ありがと。」


「おいおい、俺に惚れんなよ?」


馬鹿、と言ってやると、ジュンは声を上げて笑った。


頭の片隅に、瑠衣が存在していないわけではない。


けれどもジュンといると、ひどくお気楽な気分になれて、だから甘えてしまう自分が否めない。


すると彼は、ふと真面目な顔をした。



「こんな日なのに、お前はひとりなわけ?」

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