渇望
嘘だらけなこの街だけど、ここに生きているのは“人間”で、それぞれに心がある。


だから悲しいことや辛いことばかりではないけれど、結局あたし達は、その狭間で揺れるのだ。


今日がクリスマス当日だというのに、街はすっかり落ち着きを取り戻していた。


こんな場所を歩いていたって、だから虚しさは増すばかり。


電話が鳴ったのはそんな時だった。







「待った?」


昼下がりのカフェで、あたしを呼び付けておいて、彼は遅れてやって来た。


相変わらずの貼り付けた笑顔は、人々を魅了するための最大の武器だとあたしは思う。



「まさかアキトがこんな場所を指定するとは思わなかったけど。」


「だってほら、今日ってクリスマスだし!
俺も百合とケーキ食べたいじゃんか!」


だからって、恥ずかしくないのだろうか。


一緒にいるあたしの方が気を使ってしまい、だけどもアキトは鼻歌なんかを混じらせ、メニューを見ていた。


まぁ、甘党だとは聞いてたけど。



「てか、まさかあたしとケーキ食べるためだけに呼んだの?」


「当然じゃん。」


だって百合は可愛いし。


なんていつもの台詞を聞き、あたしはがっくりと肩を落とした。


どうしてこう、この男は瑠衣の前以外だとこんなにも無防備に笑うのか。

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