渇望
「見てこれ、苺デラックスだって!」


子供かよ、と言いたくなる。


白を基調とした明るい店内で、これじゃああたし達は、まるでデートでもしているかのよう。


何個ものケーキを注文するアキトを前に、あたしは頬杖をついてため息を混じらせた。



「百合は食べないの?」


「あたし、甘い物って苦手なの。」


「女の子なのに?」


「女がみんなケーキが好きって発想自体、差別と偏見だね。」


ぶっちゃけ、この甘い匂いが苦手だ。


あたしは女らしくはないのだろうが、でも居酒屋なんかの小うるさい方が性に合っていると思う。



「不貞腐れた顔でケーキを前にする子なんて初めてだ。」


そう言って、アキトは笑う。


どうしていつも、こんな風に他愛もないことであたしを誘うのか。



「ねぇ、今日は一応クリスマスなわけだし、もっとケーキ見て喜ぶような女を誘った方が良かったんじゃない?」


「でも、百合とじゃなきゃ楽しくないじゃん。」


断言しないでほしいと、心底思う。


瑠衣とあたしの関係を知っているくせに、まるで口説かれているのかと勘違いしそうになる台詞ばかりだ。


今日もアキトはブラックチタンのジッポを指で弾きながら遊んでいた。


ビンテージ物の限定品なのだと、前に聞いた気がするけど。

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