渇望
瑠衣が手渡してくれた缶ビールを流すと、アルコールが喉に沁み、頭がくらくらとする。


さすがに見かねたのか、彼はあたしが数口飲むと、それを取り上げてしまう。


脳が正常に機能していないことは、わかっていた。



「あたしさ、地元戻ろうかと思って。」


言うと、瑠衣はひどく驚いた顔でこちらを見た。



「日帰り旅行、しようかなって。」


「で?」


「うん、それだけ。」


それ以上でも以下でもないけれど。


ジュンに誘われていたから、とは言わないあたしは、この人に隠しておきたかったのだろうか。



「いつ?」


「知らない。」


「何しに?」


「わかんない。」


何だそれ、と瑠衣は言う。


親に会いに行くわけではない。


けれど、心に開いた穴を埋めるあたたかい何かが欲しかった。


いや、ただこの人に引き留めてほしかっただけなのかもしれないけれど。


でも、瑠衣がそんなことをしないこともわかっていた。


小指の指輪も、気付けば熱を失っていた。

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