渇望
祖父母の代から、我が家は医者の家系だ。


とは言っても、勤務医なんかではなく、経営までしている方だけど。


大して大きくもないあの町では名の知れた病院で、おまけに老人ホームも併設されているので、儲かっているらしい。


父親も母親も、上のお兄ちゃんも当然医者。


下のお兄ちゃんは弁護士で、まぁ、あたしは落ちこぼれというやつだろう。



「こんなんでもあたし、中学までは賢かったのよ。」


「想像つかねぇな。」


ジュンは笑う。


確かに中学生の頃は賢かったけれど、それでも結局は2位にしかなれなかった。


影でどんなに苦手な勉強を努力していても、たったひとりに勝てなかったのだ。


その子はいつも優秀で、おまけに運動も出来て、明るくて人望も厚く、生徒会にも入っていた。


母親は、いつもあたしとその子を比べ、劣っていると罵ってきた。


ストレスだけが蓄積された日々。


それでもまだ、あの頃はマシだったのかもしれないけれど。



「まぁ、もう過去は良いじゃん。」


ジュンは遮るように言う。



「ばあちゃん、百合と行くって言ったら張り切っちゃってさ。」


彼のおばあちゃんのおうちは、あの町よりもう少し田舎に行った方にあるらしい。


だからまだ、大丈夫だと思えたのかもしれないけれど。



「ばあちゃんの作る飯、すげぇあったけぇよ。」


頬を緩めておばあちゃんの話をするジュンが好きだった。


それはこの人の優しさへと通ずるものだったからかもしれないけれど。

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